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ゾウ輸入 繁殖など課題

坂元雅行 JWCS事務局長
2005年10月17日 朝日新聞 宮崎版に掲載

タイからアジアゾウのつがいが宮崎市のフェニックス自然動物園にやってきて、もうすぐ3カ月になる。入園者数は大幅に増え「ゾウ効果」もうかがえるが、本来は「学術研究用」として輸入したものだ。国内で成功例の少ない繁殖に真剣に取り組むことが求められるなど、抱えた課題は大きい。

「あいさつやダンス、水浴びなどのパフォーマンスで、2頭のゾウは園で1番の人気者となっている」。15日、動物園にタイの関係者を招いた記念式典で、津村重光市長は満足そうだった。
ゾウの登場で入園者は急増した。7月30日に公開されると、8月の入園者数は5万5522人と昨年比で約35%も伸びた。

野生動植物の国際取引を規制するワシントン条約でアジアゾウは「絶滅のおそれのある種」とされ、輸出入が厳しく制限されている。市が輸入した6歳のオス「たいよう」と5歳のメス「みどり」も、表向きの理由は繁殖などの学術研究とされる。

市の繁殖計画によると、タイの大学などと連携し、数年後の発情期にはタイから繁殖技術者を招いて指導を受ける。フェニックス自然動物園の獣医師は昨年11 月、タイの大学で交尾や健康管理の仕方を2週間学んできた。来月にも再び出向く予定だ。

アジアゾウの繁殖は難しく、日本で成功したのは04年3月、神戸市立王子動物園での一例だけ。しかも母親ゾウは育児放棄し、子ゾウは1年余りで死んだ。

NPO「野生生物保全論研究会」(JWCS、東京)事務局長の坂元雅行弁護士は「ゾウは社会的な動物で、家族で群れ、長距離を移動する。人為的な環境だと、自然な行動が制限される」と指摘する。野生生物の保護に取り組み、宮崎市のゾウ輸入にも反対してきた。

坂元氏によると、タイのNGOの調査では、現地でゾウを繁殖させるときは、飼っているメスを森につなぎ、野生のオスと交尾させることがほとんどという。生まれた子ゾウはワシントン条約上で一段と厳しく輸出入が規制される「野生」扱いが本当だが、「飼育繁殖」したゾウとして市場に出回っているのが実情という。

坂元氏は「実際には野生と飼育繁殖の区別はあいまいだ。野生個体の取引の抜け穴になる可能性があり、繁殖個体名目での輸出入にも慎重であるべきだ」と話す。

フェニックス自然動物園の出口智久園長は「タイでは飼育されているゾウ同士でも繁殖している」と反論する。タイに派遣した獣医師も飼育下での交尾を確認したという。今回のゾウのつがいはある程度大きくなるまで飼育下の群れの中で成長していたため、社会性も身につけていて繁殖しやすいとも言う。
出口園長は「本物のゾウを見ることで、タイの自然環境への関心が高まり、環境保護にもつながる。結局、ゾウのためになる」と主張する。

ゾウの輸入は昨年9月、タイ税関が「書類不備」を指摘したため10カ月遅れた。タイ国内でトラの不正輸出疑惑が昨年当初に問題化し、タイが国内法を厳格に運用するようになったのが原因、と宮崎市は推察する。

野生生物を守れという声は日本国内を問わず世界的に高まる一方で、反対運動が広がるのを警戒していた市は、実現目前だった輸入の進み具合を公にしてこなかった。

タイ側からは「輸出許可書を出す」との連絡が7月12日にあったが、津村市長は3日後の定例記者会見で「来るのかは明確な予測がつかない」と言葉を濁した。市が輸入を公表したのは、ゾウがバンコク空港を飛び立った21日午後だった。

津村市長は7月30日のゾウのお披露目式で「1年余りゾウに振り回されたが、ゾウの可愛さを知ってもらい、感動を与えられると思う」と語った。
ゾウに詳しい動物園関係者によると、米国など海外の動物園では、自然な環境に近づけるために数頭の群れで飼い、繁殖に成功している例もあるという。しかし多くの資金や広い土地が必要で、簡単には実現できない。

さまざまな制約を抱えるフェニックス自然動物園が、繁殖にどう取り組んでいくか。「学術研究」をお題目に終わらせず、「ゾウは人寄せ」という批判にこたえられるかどうかは、むしろこれからにかかっている。

トラないで インド密猟横行 絶滅の恐れ 酒・漢方薬 日本にも密輸

戸川久美 JWCS事務局次長
2005年5月2日 共同通信が配信し、愛媛新聞などに掲載

世界中に数千頭しかいなくなり絶滅が心配されているトラの密猟が、最大の生息国であるインドで最近、目立っている。毛皮や漢方薬の材料となる骨がアジアを中心に高価で取引されること背景になっている。

絶滅の恐れのある野生生物の国際取引を規制するワシントン条約の事務局長が、インドのシン首相に異例の新書を送り強力な密猟対策を求めるなど、関係者の間に懸念が広がる。
違法と見られるトラ製品は、日本国内で見つかることもある。日本の保護団体も「このままでは次の寅(とら)年までに、インドのトラはほとんどいなくなってしまう」と、国内の取り締まり態勢強化や、インドでの保護活動への協力を求めている。

環境保護団体のインド野生生物保護協会によると、1994年から2004年までの間に、少なくとも724〜9頭のトラが密猟によって殺された。今年1月末には、大量のトラの毛皮や骨を隠し持っていた密輸団が摘発された。

密猟が一向に減る兆しがない一方で、トラの個体数は減少傾向にあり、中にはほとんどトラがいなくなってしまったトラの保護区もあるという。

危機感を強めたワシントン条約事務局は4月初め、シン首相に「保護区の中でさえトラの個体数が減ったとの調査結果に大きな懸念を抱いている」との事務局長名の新書を送付。「組織された犯罪集団に対して、インド政府の対策は効果的なものと言えるのだろうか」と、対策の不十分さを指摘した。

日本でトラの保護活動を進めているトラ保護基金(東京)の戸川久美さんは「トラの性器や、それを漬け込んだ酒などが依然として国内で売られており、日本の密猟対策は不十分で、取り締まりの強化が必要だ」と指摘。「資金不足に悩むインドの保護対策に、日本としても資金や技術援助を進める必要がある」と話している。

野生生物のペット化危惧 ―乱獲で絶滅の恐れも

坂元雅行 JWCS事務局長
2004年10月 時事通信が配信し、茨城新聞、神戸新聞、長野日報、八重山毎日新聞、山口新聞などに掲載

最近、珍しいペットが巷にあふれています。
外国産のカメやカメレオンなどの爬虫類、熱帯産のインコ、リスの仲間のプレーリードッグ、子供の間でもブームになった様々な形や色の外国産のクワガタムシ…。ホウシャガメというドーム状の甲羅をもったリクガメがペットショップからの盗難事件がテレビで流れることもあります。

一方で、こうした野生の生き物をペットにすることに様々な問題があることもはっきりしてきました。
ひとつは、病原体が媒介され感染症を引き起こすことです。一昨年猛威をふるったSARSはその恐ろしさを警告しました。
もうひとつは、ペットが野外に流出して「外来種」問題を引き起こすことです。イタチに似たジャワマングースが沖縄にしかいないヤンバルクイナという飛べない鳥を食べてしまったり、北米産のアライグマがタヌキを暮らし場所から追い出してしまったりということが起きています。

さらに、ペット取引の一番根っこにある問題を忘れるわけにはいきません。
ペット取引がその種の存続を危うくするほどの捕獲を引き起こすため種の絶滅すら危ぶまれる野生動物たちが数多く存在していることです。

オランウータンは、暮らし場所である東南アジアの熱帯林が破壊されていることに加え、撃ち殺された母親にしがみつく指をナタでたたき切られた子どもがペット取引のために連れ去られます。カメの仲間は数を増やすのに長い年月がかかり、大量に捕まえられると種の維持が難しくなってしまいますが、驚くほど様々なリクガメ、淡水性のカメがペットショップやインターネットで販売され、絶滅が心配されるものが続々と増えている状況です。

絶滅のおそれのある野生生物の輸出入は、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(通称ワシントン条約)で規制されています。

規制の対象となるのは、生きた動物だけではありません。植物も対象となりますし、体の一部や製品の入った漢方薬)も含まれます。日本はアメリカに次ぎ世界第2位の野生生物輸入大国であり、象牙、べっ甲(タイマイというウミガメの甲羅)、クマノイ(クマの胆嚢)あるいはトラの骨や生殖器を含有する薬などの有数の消費国でもあります。

ワシントン条約の規制に違反して野生生物やその製品を日本へ持ち込もうとすると、税関で輸入が差し止められ(「知らなかった」はいいわけになりません)、関税法などの法律で懲役刑や罰金刑が科されることがあります。一般の人が海外で野生生物やその製品を買ったりもらったりするとき、「もしかしたら…」と慎重な態度をとるべきでしょう。

10月2日からタイのバンコクでワシントン条約の締約国会議が開催されます。(残念ながら日本政府が推進している)象牙やクジラの取引禁止を解くかどうかという議題の他、ペット取引関係の野生動物の規制強化についても話し合われます。

日本ではマニアの憧れの的として2000年に一挙に900匹もが輸入されたマダガスカル島のクモノスガメ、2004年2月には800匹を日本に輸出しようとした者が摘発されたスッポンモドキ、日本でもペットとされインドネシアのいくつもの島で絶滅しつつあるコバタンという中型のオウムなどです。

たとえどんなに可愛がったとしても、本来の暮らし場所から引き離されてしまうこと自体が野生動物にとっては死にも値するという事実を考えたいものです。

日本のトキ絶滅
自然多様性の喪失 精神の荒廃を招く −保全 文化としても評価を

小原秀雄 JWCS会長/女子栄養大学名誉教授
2003年11月5日付読売新聞(夕刊)に掲載

佐渡のトキ、キンが十月十日に死んだ。日本のトキの絶滅であり、地域の生物多様性の喪失である。

種としてのトキは中国に同一種(DNA鑑定で)が野生している。その中国から持ち込まれた個体が佐渡で飼育され増殖し、野生復帰が望まれて努力が重ねられている。
とはいえ、キンからの無言の遺言として、その死の意味をより広く受け止めたいと思う。  

野生の鳥やけものは個体性が発達、個体や群れを生活単位として、自然の生態系内に種の世界(種社会)を形づくる。他の生物と食物連鎖の関係を結ぶなどして地域の野生生物「界」を構成する。こうして種の生活が維持され、生物界の進化史をつくる。個体、種、地域ごとの生物界の多様さが、まさに生物多様性を現している。

かつて佐渡のトキを捕らえて収容し、雄のミドリの死で繁殖不可能となった時、インタビューなどで私は、実質的に日本のトキは絶滅したと述べた。長い進化史を経た自然生態系の中での位置(生態的地位)を占めていた種が失われたからである。

人間が知って分類した生物は二百万種、知られていない種はその数十倍とみられる。主に人間活動により地球上の生物多様性は退潮し続け、人知れず絶滅した種も多い。

トキのような鳥類や哺乳類は、自然界の健康の指標である。今、その絶滅や減少の度合いは、地球上のバランスを崩し、人間をも脅かす事態にまで至っている。四つ理由を上げて、そのことを説明したい。

第一は人間自身の保健への脅威である。開発や紛争などで野生生物界に安住していた生物が流出し、新しい病(西ナイル熱など)を生み出し、そして拡がっている。

第二は大気や水、その他自然資源の荒廃。熱帯雨林に代表される多様な種の生物界が単純化、乾燥化などし、気候変動を起こしている。水不足、水質や大気の悪化が進み、人間の物質生活の基盤である自然の荒廃を招いている。

第三は地域の風土の変化。地域の生物多様性の変化が、それまで結びついていた地域の文化を背景から変えた。風土を形成し、郷土への印象を生む地域の自然景観が、都市的共通性に変わっている。佐渡の空に舞うトキの姿を見ることは、もうできない。先進国に典型的な経済発展による「故郷」の喪失である。

第四は精神環境の悪化である。第三の理由とも関わるが、現代の先進国に拡がる人心の荒廃は、自然の多様さの喪失がもたらすとみられている。動物の行動や四季の変化の多彩さが、変化のない人工世界に置き換わっている。 鳥やけものへの人々の愛情は、人間の内なる自然が、自然そのものに共鳴するためかもしれない。
野生生物の価値は、自然遺産としてだけでなく、文化遺産でもあるとして見直されるべきであろう。幸いなことに、特にヨーロッパでは、こうした傾向が力を得ている。生物多様性条約の理念もここにある。

野生動物の価値がまだまだ認められていない日本では、開発と自然保護の利害調節や環境教育の強化などが、有識者や学者などによって何度も語られてきた。しかし保護運動に長年携わってきた人々は、言葉だけでは事態の進行の歯止めにはならないことを重々知っている。

キンの死を最後として、野生生物と人間との関係を見直したい。時間をかけて敵対から尊重の関係へと。「温かい無視」で人間と動物がモザイク状に暮らすなど、新しい共存の実現をキンへのはなむけとしたい。野生生物を含む自然が、文化遺産のように価値づけられ、保全が「文化事業」となる。これは夢物語であってはならない。

アフリカゾウの象牙取引再開と、日本政府・消費者のかかわり

坂元雅行 JWCS事務局長
2003年10月23日 朝日新聞(朝刊)の「私の視点」欄に、「象牙取引 生態系を壊す再開に反対」というタイトルで掲載
※字数制限が厳しい紙面のものとは多少表現が異なっています。
また、朝日ヘラルド(英字新聞)にも2003年11月14日に掲載されました。

アフリカのサハラ砂漠以南には、今も貴重な自然の生態系が広がっている。
それを維持する上で、「カギ」になる役割を果たしているのが、アフリカゾウだ。

アフリカゾウの保全は、アフリカだけでなく、地球の自然環境を守る上でも、不可欠だと考えている。
私たちJWCSは、ゾウの保全活動として、日本の人々にゾウの危機的な現状を伝え、寄付を募り、アフリカの国立公園レンジャーに、抗マラリア薬など、パトロール活動に必要な物資を届ける活動を続けてきたが、同時に、禁止されている象牙の国際取引解禁に異議を訴えている。

2003年9月29日から10月1日にかけ、日本政府が中心となって「第3回アフリカ開発会議」が東京で開かれたが、ここで改めてアフリカゾウの象牙取引の問題への日本政府・消費者のかかわりと、アフリカ開発という文脈で象牙取引が歴史的にどのような意義をもってきたかについて指摘しておきたい。

ゾウがとりわけ激減したのは、70年代後半からの約10年間。アフリカ各地で紛争が激化し、象牙の国際取引を目的にした密猟も激増した。
メスも子も、自動小銃で群ごと殺され、ゾウの個体数は、134万頭から62万頭へと半減した。
ゾウの妊娠期間は22カ月。4,5に1頭の割合でしか増えないので、打撃は深刻だった。
象牙取引による利得は、各国の政治腐敗、富の分配の不公平の温存に加え、武器の購入資金にもなった。

日本は、80年代だけでも年間平均270トンの象牙を輸入した。これはゾウ1万〜1.5万頭分に相当する量で、日本は世界最大の象牙消費国だった。その6割は印鑑に加工され、消費者は「最高級素材」という業界の宣伝のもと、象牙の実印や銀行印を買った。

ゾウの激減を受け、89年には、絶滅のおそれのある野生生物の国際取引を規制するワシントン条約の第7回締約国会議で、象牙の国際取引は禁止された。

しかし、日本と南部アフリカ諸国が条約関係国に働きかけた結果、日本1国が99年にボツワナ、ナミビア、ジンバブエから約50トンの象牙を輸入している。

さらに、東・西アフリカは反対の意見を表明していたが、昨年の第12回締約国会議の決定に基づき、来年には、5年ぶりにボツワナ、ナミビア、南アフリカ共和国の3国から、60トンの在庫象牙が日本に輸出される可能性もある。

この間、日本政府(経済産業省)は象牙の「商業貿易再開を目指し、国際的な環境整備を推進するための業界の取り組みを支援することが必要」(経産省の補助金事前評価書より)として、政府補助金を投入し続けている。

こうなると、ゾウの密猟が増えることが懸念される。
最近、ゾウの密猟事件、国立公園保護管が密猟者に殺される事件、象牙の密輸事件のニュースが頻繁に舞い込んでくるのは気がかりだ。
印鑑などの象牙製品が日本で大量に販売されているが、合成樹脂など代替素材は十分ある。消費者は、ゾウの絶滅の危機を理解し、考えを改めて欲しい。

日本政府の責任はさらに重い。アフリカにルーツを持つ歴史学者ウォルター・ロドネーによると、かつて象牙取引は奴隷貿易とも結びついたうえ、アフリカがアジアなど海外市場への依存度を強め経済的自立を後退させることにつながったという。

日本のアフリカ外交では、環境保全や人権擁護といったテーマの優先順位が低く、しかも象牙取引再開推進は政府の既定方針でもあるが、この状況を打開しなければ、アフリカと地球全体の将来世代にゾウとアフリカの自然環境を残すことはできまい。

「第3回アフリカ開発会議」が9月に東京で開かれた際、私たちは「象牙取引はアフリカの人々を救わない」という英文のパンフレットを会議参加者に配り、多くの非政府組織(NGO)には取引再開反対への賛同を訴えた。今後様々な活動に一層力を入れていきたい。