【CITES CoP17】会議報告⑤ 一日ゾウの議題

●MIKEとETISの報告
 MIKE(ゾウ違法捕殺監視システム)の報告に、現状が反映されていないという発言が続きました。ケニアは「MIKEのデータ加工についてはもっと科学的に要検討である。レポートの結果は信用できない。ケニアはもっと高いレベルでCITESの影響を見ている。アフリカゾウ連合としてデータ検証システムを推奨する」と述べました。アフリカゾウ連合とは象牙の売買より観光を重視するアフリカ29か国によるグループです。
 南アフリカ共和国は「一度限りの象牙取引と密猟の関係は表れていない。PIKE(違法に殺されたゾウの割合)はある国立公園で上昇した。国内の政策でキャパシティー・ビルディングにも努めている」、ナミビアは「持続可能な保全は可能。MIKEは密猟の増減について何も示していない」と発言していました。
 アメリカは「当初アジアの実施に問題があったが今はうまくいっている。まだとくに注意すべき場所は残っている。例えば南アフリカ共和国のクルーガ国立公園はもう安全ではない」と述べていました。ちなみに南アフリカ共和国に生息するゾウ推定18,841頭のうち、17,087頭がクルーガ国立公園に推定生息しています。(IUCN『African Elephant Status Report 2016』p175 )
 
 MIKEの報告に対してはデータについて意見がありましたが報告そのものは合意され、次の議題ETIS(ゾウ取引の情報システム)の報告へ。スリランカは「2016年4月から規制を強化している。象牙の国内取引を禁止しているのに、対策を取るべき国のリストに入れられて迷惑だ」、ウガンダも「違法取引防止に取り組んでいるのに、第一次懸念国に入れられているのはBad boy扱いでフラストレーションがある」と発言するなど、自国の取り組みがレポートに反映されていないことへの意見が相次ぎました。
 これに対しETISの実施機関であるTRAFFICは「レポートはリスク・アセスメントの意味がある。リストに入れられた国は象牙の通り道であるからであり、これも国別象牙行動計画(NIAPs)に利用してもらうためでもある。96%のデータは加盟国自身からのものだが、データを入手する時点で遅れ、結果をまとめるのにも時間がかかるので、レポートがタイムリーでないのは仕方がない」と答えていました。
 
●象牙国内市場閉鎖
 象牙国内市場閉鎖の(議題57.2)の提案国の一つであるチャドは、「すべての在庫象牙を壊すべきだ」と発言。ニジェールは「密猟の増加は象牙市場の存在自身が脅威となっている。違法象牙と合法象牙の区別は不可能である。中国も市場を閉鎖すると決めた。EUも閉鎖してほしい。このままでは新たな市場の登場もありえる」と述べました。
議長は議題57.1、57.2、57.3および27Annex1、24について、決議10.10(ゾウの標本(象牙など製品と生体のこと)取引)改正の議論とNIAPs、二つの作業部会を作って議論することを提案しました。
 ナミビアは「CITESは国際商取引の条約であり、持続可能な利用が基本方針なのだから象牙国内市場閉鎖の議論をすべきではない」と発言。それに対しイスラエルは「条約の決定以上のことを国内で実施する権利が認められている」と応えていました。
(参考)
第14条 国内法令及び国際条約に対する影響
一 この条約は、締約国が次の国内措置をとる権利にいかなる影響も及ぼすものではない。
(a) 附属書Ⅰ、附属書Ⅱ及び附属書Ⅲに掲げる種の標本の取引、捕獲若しくは採取、所持、若しくは輸送の条件に関する一層厳重な国内措置又はこれらの取引捕獲若しくは採取、所持若しくは輸送を完全に禁止する国内措置

 
 ケニアは「決議10.10(ゾウの標本取引)には国内取引のことも入っている。チベットアンテロープのときも、国内取引を禁止した歴史がある。象牙の国内市場閉鎖は緊急に必要で、グローバルに重要な問題だ」と発言しました。
 
 ナミビアの「国内取引について議論をすべきではない」という意見に賛成か反対かで投票を行いました。投票の結果、賛成31、反対57、棄権7で象牙国内市場閉鎖の議論を続けることに決まりました。日本は象牙の国内取引を議論しない方に投票しました。投票した国のリストを見ると、議論をやめることに反対したのではなく、議論を続けることにNoを投票したのではと思われる国もありました。
また締約国は182か国(CoP17当時・EU含)ですが、出席していない国を差し引いても投票数が少なく、投票していない国は電子投票の機械操作に問題があった可能性がありました。
 この夜から始まった2つの作業部会に日本政府も参加しました。
 
参加国及び団体はCoP17 Com. II Rec. 3 (Rev.1)参照
 
 
●象牙取引再開のための意思決定メカニズム(DMM)

 象牙取引再開のための意思決定メカニズム(DMM)とは、象牙取引を再開するための手順を生息国・輸入国双方で挙げたものです。今回の会議で決議できるように最終合意を取っておく必要がありましたができませんでした。
 そのままならタイムアウトしてしまう議題でしたが、常設委員会でこの議題の議論を続けるかどうか、締約国会議で合意を取ることにしていました。(Doc. 84.1)
 このDMMを不要とし、代わりに密猟・密輸対策を取るという提案が、ベニン、ブルキナファソ、中央アフリカ共和国、チャド、エチオピア、ケニア、ニジェール、セネガルから提出されました(Doc. 84.2)。(提案の和訳)
 合法象牙取引の支持者は、この提案に反論できるでしょうか。
 
 それに対し、ナミビア、南アフリカ共和国、ジンバブエは決議10.10の改正または注釈の削除で象牙引再開の方法を提案していました。(Doc. 84.3)
 DMM不要の提案国の一つであるケニアは、「一度妥協して一度限りの輸出をしたが、今は保護の方向へ変えるべき時。これまでDMMについてさんざん議論にエネルギーを使った分を、保護のための議論に費やすべき。永久に話さないとは言っていない、2007年と状況が違う今、将来の取引を話す時ではない」と述べました。ベナンは「DMMの議論をすることはますます密猟のリスクを高める」。エチオピアは「象牙はゾウのもの。全世界で取引中止しなければゾウがいなくなってしまう」。エチオピアに生息するゾウは、あとわずか1,017頭と推定されています(IUCN『African Elephant Status Report 2016』p99)。
 
 最初の投票で、DMM不要(Doc. 84.2)は、賛成44、反対45、棄権11で否決されました。日本は反対していました。
 次に南アフリカ共和国などの提案(Doc.84.3)です。日本を含む14か国が秘密投票に賛成しました。結果は賛成21、反対76、棄権13の大差で否決されました。
相反する結果になったため「議論を続けるかどうか」(Doc. 84.1)という常設委員会の提案の投票が行われました。EUは各国がそれぞれの意見で投票しました。
間違いがないよう「Yes(緑)」は次回の締約国会議でも議論する、「No(赤)」はもうこの議題は終了すると議長が確認し、投票が行われました。
 結果は賛成20、棄権13、反対76で圧倒的に議題の終了が支持されました。
 
どの国が賛成または反対したかは、CITES事務局の議事録で確認できます。
(DMMの最終決定となった議題84.1の投票結果はP9以降参照)