メジロザメ科54種のCITESⅡ 11月25日から効力発生

留保種を輸入管理の対象外とすることに対し、パブリックコメントを提出しました

 2022年11月にパナマで開かれたワシントン条約第19回締約国会議で決議された、日本で最も漁獲されているサメであるヨシキリザメを含むメジロザメ科54種の附属書Ⅱ掲載が11月25日から効力を発生します。通常は締約国会議終了90日後に効力が発生しますが、メジロザメ科全種の附属書掲載は準備期間を1年とることが合わせて決議されました。附属書Ⅱ掲載種は、輸出国の科学当局が「種の絶滅に無害な輸出である」と助言し(無害証明)、管理当局が「自国の法令に違反して入手したものではない」と認めて輸出許可書が発給されると取引ができます。
 日本政府はヨシキリザメの附属書Ⅱ掲載の留保(その種に関して締約国ではないとする)をしています。そのためワシントン条約に基づく輸入手続きからヨシキリザメを除外する法律改正が準備され、それに関するパブリックコメントの募集が9月1日~30日にありました。
 JWCSは留保種を輸入管理の対象外とする措置について、①ワシントン条約違反に対する法執行の実効性 ②企業活動におけるトレーサビリティの確保 の点で問題があることを指摘するコメントを9月26日に経済産業省に提出しました。  (提出したコメント)

法執行の実効性

 日本ではこれまでも留保をしている種を、輸入手続きを定めた法律(1)から除外する措置をとっています。しかしワシントン条約では留保している国(つまりその種に関して締約国ではない国)と輸出、輸入、再輸出する場合も、輸出国の輸出許可書やそれに代わるものが必要です(条約第10条)。輸入管理の対象外としてしまったら、そもそも輸出許可書の確認はどの法律が担保するのでしょうか。例えば違法に漁獲した輸出許可書のないワシントン条約対象種のサメも合法に輸入できてしまいます。
 とくにメジロザメ科54種が附属書に掲載されたのは、大量に国際取引されるフカヒレや冷凍の切り身を、税関や警察が附属書掲載種か否かを識別するのが困難であるため、取引されるおもなサメを附属書に掲載し、輸出許可書の有無で合法か違法かを判断するためでした。このような対策はチョウザメ目(卵であるキャビアが取引される)やラン科、アフリカの高級木材で紫檀やローズウッドなどの名称で取引されるマメ科の樹木種を幅広く附属書に掲載するなど、すでに行われています。
 ヨシキリザメを留保している国は、日本のほか、カナダ、インドネシア、タイ、パラオ、イエメンで(2)、これらの国の間では締約国ではない国どうしの取引という扱いになります。つまり留保していない国ではワシントン条約に基づく法律により違法となる商品が、これらの国では合法なので、ロンダリング(洗浄)に利用されるおそれがあります。

企業活動におけるトレーサビリティの確保

 投資家が企業を判断する指標として、環境や人権への配慮を重視するようになっています。それは企業の社内だけでなく、原材料の調達元、サプライチェーン上での環境問題や人権問題も企業リスクと考えられるようになりました。しかし経済のグローバル化でサプライチェーンをさかのぼることは容易ではありません。
 外国の企業が、サメのすり身を使った食品や軟骨成分を使ったサプリメントを仕入れようとした場合、漁獲から製品までのサプライチェーンがすべてサメを留保していない国にあれば、輸出許可書を発行する時点で、乱獲のおそれがないことや違法に入手したサメではないことを政府が証明するので、投資家や取引先へ説明ができます。
 ところが日本は留保種を輸入管理の対象外としていますので、サプライチェーン上に日本の企業があると、乱獲したサメや、違法に捕獲されたサメが混ざっていないかを確認する必要が生じます。そもそも日本の企業はリスクがあるから取引しないと判断するかもしれません。
 WWFが2021年に公開した報告書によると、過去10年間のサメ肉の主要な国際取引は、日本とスペイン(およびその逆)、ポルトガルとスペイン、英国とスペイン、日本とパナマ、中国と日本の間でした(3)。これまでの日本の主要な取引国はヨシキリザメを留保していませんので、日本だけが特別な手続きが必要な国になっています。
 近年は事業者による輸出の申請-輸出国当局による許可(無害証明を含む)-輸入国当局の承認-条約事務局への報告が一体となったオンラインで手続きができるシステム「eCITES」の導入が条約事務局により促進されています。これにより正確に取引量を把握して乱獲を防ぎ、許可書の偽造など違法取引を排除できるため国際取引の透明化が進むと期待されています。
ワシントン条約という国際取引のシステムから留保によって外れることで、企業活動に不利益を生じさせているのではないでしょうか。

 サメを漁獲したり、サメ肉やフカヒレを消費したりしている国の多くが、留保をせず附属書Ⅱの規制の中で取引をしています。規制を受け入れず留保することが日本の漁業者や企業の利益になっているのか、考え直すべき時に来ています。

(1) 外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)第52条及び輸入貿易管理令(昭和24年政令第414号)第3条第1項
(2)ヨシキリザメを留保している国。国内の制度等が整い次第、留保を撤回することがある。2023年10月1日確認。
https://www.speciesplus.net/species#/taxon_concepts/100382/legal
(3) WWF (2021) The Shark and Ray Meat Network a Deep Dive into a Global Affair  P10