【CITES CoP16】報告①

●ゾウ保護を述べたタイ首相のスピーチ

今年40周年を迎えるワシントン条約の第16回締約国会議(CITES CoP16)が、178カ国約2,000名が参加して、3月3~14日にバンコクで開催された。議長国であるタイのインラック首相は冒頭スピーチにおいて、「同国は今後、象牙取引を終了させるという目標に向かって国内法を修正するよう努力し、自国のゾウだけでなくアフリカゾウの保護にも貢献する」と述べた。自国にゾウが生息するタイでは、これまで自国産象牙の国内取引は認められてきた。同国内には正規の象牙販売店が67あるが、実際には250以上の店で象牙が売られているという。自国産象牙と密輸入象牙との区別は難しいので、タイは密輸象牙の中継基地になっていると非難されてきた。首相スピーチは即時禁止といった表現ではなかったようだが、こうした非難への対応といえる。

審議の動向

附属書に関する提案数をみると、前回までの10年は一貫して減少傾向にあったが、今回は久しぶりに提案が増えた(表1)。とりわけ爬虫類に関する提案が増えたのが注目される。しかし爬虫類や植物はメディアに注目されにくい対象である。前回のCoP15では大西洋クロマグロに関する提案があって、「マグロが食べられなくなる」とセンセーショナルな取り上げられ方をしたため、各局のニュース解説などでかなりの報道量になったが、今回のCoP16に関する日本国内の報道はきわめて低調であった。

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  CITES附属書Ⅰ・Ⅱ・Ⅲに掲載されている種数を見ると、絶対数で最も多いのは植物であり、無脊椎動物、鳥類、爬虫類、哺乳類と続く(表2)。しかし各分類群は自然界に存在する種数自体が大きく異なっている。そこで附属書に掲載された種数が世界における各分類群の全種数に占めるおよその割合をみると、哺乳類、鳥類、爬虫類、植物では12~18 %であり、およそ1割以上の種が附属書に掲載されている。これに対し、両生類におけるその割合は3 %、魚類では0.5 %に過ぎず、無脊椎動物では0.2 %以下である。近年のCITESにおける割合議論が哺乳類や鳥類にとどまらず、両生・爬虫類や魚類に広がりを見せているのは、今まで手薄だった分野に着目しようという動きの反映ともいえよう。

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提案のタイプについてみると、特定種を附属書に掲載することを新規に求めるだけでなく、地域を限定したり、注釈の解釈を明確にさせて取引関係者に混乱が起きないように求める提案が増えたように感じた。附属書のランクを下げたり、附属書から削除するダウンリストは2/3以上の賛成を得ることが難しく、いったん上げたランクを下げるのは難しいとされてきた。しかし今回はいくつかのダウンリスト提案が認められ、保護重視の立場をとることの多いSSN(Species Survival Network)などのNGOも一部について賛成していた。主要な動植物があらかた附属書に掲載された現在、CITESの今後の方向性としては第二委員会で審議されるような、現場における実効性をどのように確保するのか、関連機関や関連条約とどのように連携して行くのか、人材をどのように養成するのかといった運用面の重要性が増してゆくだろう。
  (安藤元一 JWCS副会長)