【CITES CoP16】報告②

●分類群別にみた採決の動き

哺乳類: NGOによるアピールが最も活発だったのはホッキョクグマである。ホッキョクグマを附属書Ⅱ掲載種から附属書Ⅰに引き上げるという提案3は、3年前の前回会議に引き続くものである。前回の議論ではホッキョクグマ減少の主因は気候変動による環境悪化であって、国際取引による影響は少ないという意見が多くてして否決された。このためかNGOによる今回のキャンペーンは狩猟圧も強いことをアピールする傾向にあったが、可決には至らなかった。アフリカマナティーを附属書Ⅰに引き上げるという提案13は可決された。アフリカゾウやサイについては毎回議論が紛糾するところである。アフリカゾウへの密猟圧は近年、特に高まっており、会議のサイドイベントにおいてもこの事実が報告された。しかし今回は両種に関する提案11と12は提案国によって撤回された。
 

 提案1のイタリアンシャモア(野生ヤギ)と提案2のエクアドル産のビクーニャについては附属書ⅠからⅡにダウンリストすることが議論された。前者はイタリアおよびEUの法制度によって十分に守られているという理由で可決されたが、後者は保護不十分との理由で否決された。このほかの提案は、フクロオオカミなどの絶滅種や存在自体が疑問であった種を附属書から削除するといった、手続き的な提案であり、問題なく可決された。

鳥類: 鳥類に関する9提案はいずれも附属書IからIIへの移行あるいは附属書からの削除に関するものであった。ハイイロヤケイやベニキジについては、分布地域の国が反対していたり、羽毛目的の狩猟圧が存在するとの意見があったりして否決され、カスピアンセッケイやチベットセッケイについても同様に否決された。絶滅種を附属書から削除するという手続き的な提案は可決された。

爬虫類・両生類: 爬虫類に関して過去に例を見ない16もの提案がなされた。とりわけカメ類については40種以上もの多種について審議された。カメ類の国際取引はペット需要が大きな割合を占めている。日本は生きたリクガメの輸入頭数においては米国に次いで多いことから、今回の決定には大きな関心払うべきだろう。

 日本からもリュウキュウヤマガメを附属書Ⅱに掲載することが提案された(提案34)。このカメは沖縄諸島の一部地域に分布する固有種であり、国内では絶滅危惧Ⅱ類(VU)として扱われる。天然記念物に指定されているので捕獲や移動等が規制されており、商業目的での利用は既に原則認められていない。しかし海外で同種が販売されていることがIUCNやトラフィックなどの調査によって確認されているので、そのための国際取引が違法捕獲を誘発している可能性が高い。また本種は人工繁殖も可能であるので、合法繁殖個体のみが適切に国際取引されるようにするためには、本種の取引を監視体制下に置くことが必要というのが提案理由である。加えて、日本の提案では野生個体の商業取引の割当量をゼロとし、飼育繁殖個体についても日本からの商業輸出割当量をゼロとしている。また中国と米国の共同提案による提案32では淡水ハコガメの多くの種を附属書Ⅱに掲載することを求めており、この中には国内産のリュウキュウヤマガメ、ニホンイシガメ、セマルハコガメも含まれる。
 爬虫類については、附属書ⅠからⅡへのダウンリストを求めたアメリカワニ、イリエワニ、シャムワニについての3提案以外は、すべて附属書Ⅱへの新規掲載あるいは附属書Ⅰへの格上げを求める提案であった。採決においては、ダウンリスト提案がすべて否決され、格上げ提案がすべて可決されるという対照的な結果となった。提案23におけるコロンビアの一部地域のアメリカワニのダウンリストについては、賛成が反対を少し上回ったが、2/3には達せずに採択されなかった。イリエワニとシャムワニのダウンリスト(タイ産の野生個体の商業取引割当量をゼロとする条件付き)は開催国であるタイからの提案である。同国政府は「養殖事業はうまく管理されているし、野生への再導入をはじめるなど保護努力も十分に行っている」とアピールしていたが、同様に2/3には達しなかった。開催国としてロビーイングをしたうえでこの結果であったので、同国政府関係者は、次回以降の会議でこの流れを変えるのはむずかしそうとの印象を持ったようだ。
 両生類に関する3提案のうち、一つは附属書への追加、二つは絶滅種をリストから削除するものであり、いずれも可決された。
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 (安藤元一 JWCS副会長)