【CITES SC69】地域社会と絶滅危惧種の貿易

常設委員会3日目のトピックの一つは「地域社会」でした。
「野生生物の違法取引における地域社会の認識」(SC69 Doc.18)の議題は、地域社会をベースにした密猟、違法取引対策に注目していこう、という内容です。IUCN Sustainable Use and Livelihoods Specialist Group (SULi)に優良事例と課題の抽出を委託することになりました。
 
 
「生計と食糧安全保障」の議題(SC69 Doc.69)は、事務局と中国からの提案です。前回の第17回締約国会議でこのテーマの提案をしたのはアンティグア・バーブーダ、コートジボアール、ナミビアでした。「食糧と栄養の安全保障」「文化的アイデンティティーの維持」「生計の安全」が、附属書改正基準や、種の存続を脅かさないことの確認(Non – Detriment Findings)に反映されるべきという主張に対し、常設委員会で議論が継続されることになっていました。
 
事務局はワーキンググループを結成し、2018年の常設委員会で次回の第18回締約国会議に提出する草案を作ることを提案しました。会議では、EU、ケニア、ナイジェリアなどが賛成し、ワーキンググループが設置されました。
しかし、ニュージーランドは、「附属書Ⅰに格上げ(=国際取引禁止)すると食糧に影響するのか、持続不可能ではないか」と本質的な論点を指摘していました。
 
IUCNとTRAFFICは、生物多様性条約(CBD)でブッシュミート(野生生物の肉)についての決議があり、今年の生物多様性条約科学技術助言補助機関会合(SBSTTA)でも議論した、技術的に支援すると発言していました。
 
野生動物利用の立場のIWMCのラポワント氏は「ワシントン条約のプライオリティを、人間の自然資源利用に変えるべきだ」と発言していました。
 
一方、Humane Society Internationalをはじめワシントン条約に積極的にかかわっているNGOのグループはワーキンググループは必要ないと発言をしました。
 
 WCSのポジションペーパーにその理由がわかりやすく書いてあります。WCSはアフリカやアジアのフィールドにスタッフを配置している団体です。WCSはFAOと協力し活動地域の住民の生計の向上に努めていること、アフリカ、カリブ海諸国の食糧が持続可能であるようにEUが4500万ユーロを提供し、FAO主導の事業が行われていること、太平洋諸国ではブッシュミートから代わりのタンパク源に移行していることなどを述べ、ワシントン条約が扱う問題ではないとしています。
 
ワーキンググループが設置されたので、そこで議論が続くことになりました。

 
 
この他にもワシントン条約での決定プロセスに、村落地域の代表者からなる村落委員会を設ける提案(SC69 Doc.14)があります。今回の常設委員会までに、締約国は自国内の村落地域の代表者と交流してワーキンググループへの参加を呼びかけることになっており、日本もワーキンググループに関心を示したと事務局の文書に書かれていました。
 日本でも「自国内の村落地域の代表者と交流」したのだろうか、もししたとすれば日本の「村落地域の代表者」は誰で、本当に住民の声を反映できるのだろうかと疑問がわきます。同じことが他の国でもあるとすると、政府に選ばれた村落委員会のメンバーが本当に地域の声を代表しているのか、つまり貿易の利権を握った地域のボスの会になるおそれはないのか、という問題があります。
 ちなみに生物多様性条約における先住民族グループは政府から独立しており、政府や企業による開発から暮らしを守るという立場で発言しています。
 
WCSは「ワシントン条約の決議・決定は健全な科学と貿易の情報に基づくべきだ」とポジションペーパーで表明しており、議論はワーキンググループで続きます。

 
この問題の根本にあると思われたのが、「村落、先住、地域社会の用語の統一」の議題です(SC69 Doc.25)。
これまでの決議・決定では、「rural communities」 「indigenous and local communities」  「indigenous people and other local communities」 「local people」などの用語が混在していました。この件を次回の常設委員会までに検討することになりました。
 
植民地の長い歴史と移民、紛争による難民を考えると、地域社会と先住民族の意味するところは異なります。そして「local people」が、伝統的で自然と調和した持続可能な生活をしているとは限りません。国や地域によって状況がさまざまなのにもかかわらず、イメージで地域社会に関する議論がされているように感じました。そのため、この用語の統一の議論は地味ですが重要なテーマです。
(鈴木希理恵 JWCS)