【CITES CoP18】注目している会議議題①

「国際取引したい」派から条約の見直しの提案

 

 およそ3年に1度のワシントン条約第18回締約国会議が、今年開催される予定で、締約国からの提案が条約事務局のウェブサイトに公開されている。ただし、開催予定地のスリランカ・コロンボでの爆弾テロ事件の影響で延期になっている。(写真 2018年10月にロシア・ソチで開催されたワシントン条約第70回常設委員会でのスリランカ政府による次回締約国会議の予告イベント)

2018sc70

 締約国会議では、条約の長期にわたる方針や解釈に関する「決議(Resolution)」、次の締約国会議までに委員会や事務局が実行することなどを決める「決定(Decision)」、そして条約の対象として国際取引が規制される動植物種を決める「附属書の改定」が行われる。

 ワシントン条約において議論が対立するのは、簡単に言えば「野生動植物を国際取引したい」側と、「国際取引による種の絶滅を防ぎたい」側の主張である。

 例えば今回の第18回締約国会議では、「野生動植物を国際取引したい」側から、現状を変えたいと条約の見直しの提案が提出された。(CoP18 Doc.11

 提出したのはコンゴ民主共和国(DRC)、ナミビア、南アフリカ、ジンバブエである。

 ナミビアは自国のミナミシロサイを、またボツワナ、ナミビア、ジンバブエはアフリカゾウの取引規制の緩和を第18回締約国会議に提案している。コンゴ民主共和国は、附属書Ⅱ(国際取引が絶滅に無害であると証明されれば可能)のハネナガインコ、ヨウム、ヒョウモンガメ、センザンコウに関して、条約に従った国際取引ができないと判断され、条約事務局から締約国に対し、国際取引をしないよう勧告が出されている。

 提案書では条約見直しの理由として、以下の理由が挙げられている。(正確な内容は原文を参照のこと)

・・・・・・・・・・・

条約の見直しは1994年に1度行われたきりである。その見直しの中心は戦略ビジョンの決議や他の条約との連携などであった(2段落)。 

生物多様性条約COP7で採択された、生物多様性の持続可能な利用のための原則とガイドライン(アディスアベバ原則)はCITESでも決議されている(Resolution Conf.13.2  (rev.CoP14))(JWCSによる和訳

それにもかかわらず持続可能な利用の統一された解釈が決議されていない。そのため附属書ⅠをⅡに格下げするときは、分裂的で感情的な議論が会議を支配する傾向にあり、格下げ提案はしばしば否決される。

その例としてCoP7から17までのアフリカゾウの南部アフリカ個体群が挙げられる。附属書Ⅱに格下げされた個体群に対する複雑な注釈、そして象牙は別扱い。取引再開の意思決定メカニズムは否決され、象牙取引提案の一時停止決定は条約本文にある締約国の権利と衝突する。

最も悪いことは、CITESにおいては結果がなく、説明責任がなく、救済がないことである。(12段落)

アフリカのサイ2種の違法取引は続いている。サイの角の価格は確実に上がっており、サイの保護費用も急上昇している。持続可能なサイの角で保護の費用を賄い、違法取引を弱体化させる規制された取引について、多くの締約国、そして経験や知識のない批評家や自称専門家は、これまで十分に議論してこなかった。(13段落)

良く規制された観光狩猟のおもな対象種である南部アフリカのライオンやヒョウは、附属書Ⅰに格上げ、取引割り当ての取り消しまたは減少という、南部アフリカ地域以外からの提案の標的になった。これらの提案の根拠は南部アフリカ以外の種の減少に焦点を当てていた。明らかにNGO主導である南部地域の保護プログラムの影響は正当に考慮されていない。(14段落)

20年以上備蓄された象牙やサイの角は、セキュリティ保持のため経費がかかり、品質はだんだん悪化していく。

野生生物資源からの経済的価値が実現せず、村落コミュニテイは種の保護プログラムから利益を得る機会を奪われた。皮肉なことに国際取引提案に反対した国や組織からの援助に依存するようになった。政治に関心のある人はこれを新帝国主義、新植民地主義と呼ぶかもしれない。CITESは間違いなく貧困層に配慮していない。(15段落)

持続可能な利用に関する決定は、完全に誤っている。附属書Ⅱへの掲載のプラス効果に理解を得るための教育を事務局はしてこなかった。(16段落)

またGATT(1994)は途上国に有利な紛争解決メカニズムがあったので、GATTの後の組織であるWTOの加盟国はそれを遵守する義務がある、としている。

・・・・・・・・・・・

この提案に対し、CITES事務局は、1994-97年の見直しの後、人口、経済、貿易のパターンが変わった、現在もCITESはWTOと協調しているなどと反論している。

 

 提案書からは「国際取引したい」派のいら立ちが伝わってくる。一方で「よく管理された狩猟」の究極である、飼育したライオンなどを撃たせるキャンドハンティング(=缶詰狩猟)への批判、観光狩猟を試したが適切な制度ではなかったため中断しているケニア(SC70 Doc. 15 P11)、剥製にして見栄えのするオスの個体を選択的に狩猟することでの個体群への影響(MILNER 2006)、フェアトレードと結びついた村落の生業支援の動きがあるがそれも「新植民地主義」なのか、など、この提案書では考慮されていない事実がいくつもある。この議題について締約国会議でどのような意見が出るのかを注目している。

(鈴木希理恵)